2014年11月15日土曜日

シーズン4

 不意に掛かってきた電話

清次先輩、恵美さんが天国へと旅立って およそ7年の月日が経ちました。あんなに熱い絆を感じた関係も今は昔、彼らのことなど思い出すことなく、ベガルタンも通常の生活を淡々と過ごしていました。そのように何気ない生活を一変させた電話が掛かって来たのは、タイトな仕事をこなしていた柏戦の5日前でした。

普通に車を運転していると電話の着信。しかし、着信ナンバーを見ても全く身に覚えの無い履歴だったので「誰だろう・・・」と思っていたら切れたので、「まっ、間違いじゃなければ、もう一回掛かってくるだろうな」と思い、何気にスル―。すると、間髪いれずに再度、同じナンバーから着信が・・・。さすがに2回もよこすなら間違いじゃないだろう・・・ということで電話に出たことから、今回のエピソードが始まりました。

自分「もしもし、ベガルタンですが」
相手「ご無沙汰しております。斎藤佑香です」
自分「えっ、斎藤佑香さん???えーと、えーと・・・・」

最初、この電話は飲み屋のお姉さんか、風俗の店員かと思ったのよ。だから、この電話を最初に受けた時の印象は「あちゃーー、酔っ払って、自分の名刺でも渡しちゃったかなぁ~~」みたいな気まずい感じでした。しかし・・・

相手「お忘れになっているかもしれませんが、私は斎藤清次の娘、佑香です」
自分「えぇーーー!!!佑香ちゃん?佑香ちゃんなの???」
佑香「はい、その節は大変お世話になりました」

自分「いやいや、それよりもごめんね、何か気づかなくて・・。若い女の子から電話が掛かってくるのは、殆ど、っていうか、全部飲み屋さん系からしか来ないから、どの店の子だったろう・・・って悩んじゃったよ。でっ、佑香さんからの電話ということは、清次さんか恵美さんの7回忌か何かの連絡ですか?」

佑香「そちらの連絡は、OB会の会長さんを通してするつもりです。ベガルタンさんへ連絡させていただいたのは、私をユアスタへ連れて行って欲しいんです」

自分「えっ、佑香ちゃん、ベガルタに興味あったの?いやいや、生前、清次先輩が「佑香をユアスタへ誘っても、中々ついて来てくれず困ってるんだ。ベガルタには興味無いんだな・・・」って言ってたからさ―。あっ、でもね、連れていくのは全然問題ないんだけど、オジサンと行くよりも同年代の友達と行った方がいいんじゃない?」

佑香「母から、もしもユアスタへ行く気になったら、最初はベガルタンさんに連れて行ってもらいなさい・・・って言われていたんです」

自分「そう・・恵美さんが・・・」
佑香「あっ、それともう一つ、一緒に行ったらランチをご馳走してもらいなさいって・・・」
自分「先輩にはかなわなかったけど、恵美さんにも勝てないよなぁ~~」

そして、柏戦当日。私と佑香さんは清次先輩の聖地であるS北エリアへ。何気ない世間話をしながら試合を待つ。何でも、佑香さんは4月から仙台を離れ東京の看護学校へ行くらしく、仙台を離れる前にユアスタへ行ってベガルタを応援したかったらしい。

佑香「父も母も、結局はJ1で活躍するベガルタを応援できませんでした。その意味で、私は幸せ者ですね」

自分「ん~~、でも、その両親の後ろ姿を見られたから、今、佑香さんがここに居る・・・と考えれば、お父さんも、お母さんも、決して不幸せとは思ってないと思うよ。ただ、お母さんは天国へ着いてるとは思うけど、お父さんは、ひょっとしたらまだ着いてないかもね・・・」

佑香「えっ、父の方が着いてないんですか・・・お母さんは生きている時も死んでからも、待ってばかりなんですね」

そんでもって選手の入場。この日の仙台は肌寒く、座って観戦しながら薄着での応援は厳し目。しかし、佑香さんは選手入場が始まるとコートを脱ぎ棄て、気合いモードで応援態勢に入った。

自分「おおー、佑香さん気合い入ってるねー。初ユアスタ応援とは思えないよ」
佑香「はい、父と母、その想いの分も背負っての応援ですから」
自分「んっ??、そのダブダブのベガTシャツって、ひょっとしたら・・・」

佑香「はい、父のです。そして、このタオルマフラーは母のお気に入りです。正直いうと、このTシャツの左胸に書かれている唯一のサインが誰の物なのかは分かりませんが、かなり古い選手のサインかもしれませんね。ベガルタンさんなら、誰のか分かるかもしれませんね?」

その言葉を聞いた瞬間、ベガルタンは自身の瞳から涙が零れ落ちてくるのを止める事が出来ませんでした。そのサインは、清次先輩と初めて一緒に練習見学へ行った時、選手の出待ちしをして貰った「ヒサトのサイン」だったのです。そんなTシャツを見たら、生前の清次先輩と交わした、こんな会話が瞬時にフラッシュバックしました。

清次先輩 「俺、選手のサインはヒサトだけでいいわ。俺がベガサポとなったのはヒサトのおかげだから、このベガTシャツにはヒサトのサインだけでいい」

自分「それはいいんですけど、そのTシャツを俺に買わせなくてもいいじゃないですか?」

清次先輩「いやいや、買って貰った方が有難みが出るんだ。何となく、このTシャツを着ていると、俺・ヒサト・そしてお前の3人が絆で結ばれてるような気がしてな・・・」

自分「それ、勝手な妄想ですから・・・」

急に号泣し始めた中年に驚く佑香さん。
佑香「あれ、どうされました?」
自分「そのサイン、広島へ移籍したヒサトという選手の物だよ。清次先輩が大好きだった・・」
佑香「その人なら知ってます。確か、昨年の得点王だったですよね」
自分「うん、そうだよ」
佑香「私、東京へ行っても、このTシャツを来て仙台を応援します。ホントは、新しいのを買えばいいんでしょうけど・・」
自分「いや、ボロボロになって着れなくなるまで、そのTシャツで応援して下さい。清次先輩も、きっと喜びますよ」
佑香「はい、そうかー・・このサイン、ヒサトのサインなんだ・・・」

年々、清次先輩への記憶と絆が薄れていく事を止める事は出来ないのかもしれません。しかし、このTシャツで佑香さんが応援するたびに、以前にもまして「絆」の大切さを思い知ることが出来ます。清次先輩へ買ってやった時「何で後輩の俺が、出さなきゃなんねーンだよ・・・」と思ったものですが、今はこう思えます「先に天国へと旅立つ先輩への餞別だったんだな」と。試合の勝ち負けに一喜一憂する時よりも、ベガルタンはこんな時に「嗚呼―ベガサポとなって良かった・・」と思います。


明日はシーズン5、完結編。佑香さんから、久々の連絡が入りました。

0 件のコメント:

コメントを投稿