2014年6月10日火曜日

第3話 悪魔と契約する白幡

刺激(ストレス)を与えることによって、多くの細胞に変化できる「分化多能性」を持った細胞に、メッシが持つと言う万能得点力細胞を移植する・・・。そんな悪魔のような計画が、水面下で進んでいる事など知らないアーノルド監督とベガルタの選手、そしてフロントやスタッフは、もがき苦しむシーズンを送っていた。そんな状況を誰よりも憂慮していた白幡は、やむを得ず悪魔との契約へと傾斜して行くのだった・・・・


ベガルタ仙台の白幡社長は、チームの成績悪化と観客動員数の減少に苦慮していた。フロントやスポンサー、そしてサポーターさえも「仙台は予算規模が小さい弱小チーム」という認識は共有していたはずなのだが、一度でも「優勝争い」というステージを経験してしまうと、そのステージから下りてしまったチームに情熱を再注入する事は困難を極める。坂を登る際 (J2降格からJ1での優勝争い) には長い歳月が掛かるものだが、坂を転げ落ちる時は一瞬だ。そして、そんなアリ地獄状態に一度でも足を踏み入れてしまえば、そこから脱出できるアリは少数派であろう。

長年チームを指揮してきた手倉森体制から、比較的早期にアーノルド体制への移行を決めたのも、今後に起こるであろう様々な試練に対し、先手先手で対応する姿勢の表れだ。主力メンバーの高齢化、育成の停滞、そのような中で、ここまでチームを引っ張って来た監督が代わるというリスクが目の前にあると分かれば、何らかのアクションは取らざるを得ない。もちろん、それが水面下で進んでいる場合、我々サポーターが、それに気づく事はないのが普通だ。ましてや、その計画が「悪魔の計画」であれば尚更である。

体の細胞を万能細胞に作り替えるには、初期化という作業で受精卵の状態に逆戻りさせる必要がある。iPS細胞は遺伝子を使って初期化するが、VEGA-STAP細胞は酸性の溶液に浸すだけで簡単なのが特徴だ。「刺激惹起性多能性獲得(STAP)」という、刺激を加えて初期化を行い、多能性を獲得させ、その細胞を特別な方法によりメッシだけが持つ万能得点力細胞を取り出し、ベガルタの選手がもつ細胞と融合させ、チームのFWにメッシの得点力を移植させる。開幕してから勝てない状況が続き、四月に自らの勇退する事を決めた白幡は、この悪魔のような計画に掛けていた。

一方、世紀の大発見をネーチャーに論文発表して、リケンで大々的に記者会見をした久保は、世界から注目される科学者となっていた。およそ科学者には似つかない研究所の内装、白衣ではなく割烹着、そしてルックス。その活躍のフィールドはワイドショーでも盛んに取り扱われる事となり、気の早い輩たちからは「ノーベル賞確実」とまで言われる始末。まさに、我が世の春を謳歌していたのだが、彼女の実験データに疑惑が生じた辺りから雲行きが怪しくなる。

データの改ざん、論文のコピペ、実験ノートの不具合・・・出てくる資料はVEGA-STAP細胞の存在を疑わせるものばかりで、久保は世紀のヒロインから一転、疑惑の研究者へと陥っていた。そんな状況を打破すべく、彼女は記者会見を開いたのだが、世論を味方にする事までは出来なかった・・・。

憔悴しきって病院の部屋に戻ると、そこには白幡の姿があった。

久保「どうやって、ここへ・・・?」

白幡「そんな事はどうでもいいでしょう、とにかく、お疲れさまでした」

久保「ありがとうございます」

白幡「世紀のヒーローから一転、悪役扱いとは酷いもんです」

久保「どうして世間は、VEGA-STAP細胞を信じてくれないのでしょうか?」

白幡「貴方の言う「実験データの単純なミス」が最大の原因でしょう」

久保「VEGA-STAP細胞の実験は200回も成功しているんですよ?」

白幡「しかし、他の科学者は誰一人として成功して居ない・・」

久保「・・・・」

白幡「久保さん、誰が何と言おうが私は信じています。だから、貴方が隠し持っている「成功する為のコツやレシピ」という秘密を、私に教えくくれませんか?」

久保「しかし、コツやレシピだけを知っても、実験が出来る施設が無ければ・・・」

白幡「実は仙台には、第五帝国を復活させて世界制覇をもくろむカルト集団ベガータ教の本部があります。そこの総統閣下とは友人でしてね。そこなら、貴方が満足いく実験施設があるので、間違いなくVEGA-STAP細胞ができるはずです」

久保「しかし、私の研究は人類の未来の為であって、カルト集団の利益やメッシの万能得点細胞をベガルタの選手に移植する為の物ではありません」

白幡「そんな安っぽい倫理観を錦の御旗のように振りかざして、どうなるんですか?今、貴方は世間から、科学者の世界から追放されようとしているんですよ?世界の未来も結構ですが、まずは、ご自分の未来じゃないですか?追放されたら、ご自身の分身でもあるVEGA-STAP細胞は、永遠に無き物にされます。それでいいんですか?なぁ~~に、カルト集団は実験をする為に利用するだけ、成功したら離れればいいんですから問題はありません。やっていただけますね?VEGA-STAP細胞を使ってベガルタの選手にメッシだけが持つと言われている万能得点細胞の移植を・・・」

久保「白幡さん、あなたは恐ろしい人です。それは、人間倫理に反する行為なんですよ?」

白幡「私は悪魔と契約する事にした時から、良心は捨て去りました。なので、それを無くすことでの呵責など一切ありません」

自ら生み出したVEGA-STAP細胞を守る為に実験を決意した久保。そして、VEGA-STAP細胞にチーム浮上を掛ける白幡。互いのメリットが共有された時、そこには悪魔が微笑んでいたのであった。

第四話は、カルト教団の教祖であるベガルタン総統閣下との出会いです。

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